ルーツ解析

 考えをまとめるための雑文として書いているこのblogにも、どうも結構来てくれている方がおられるようだ。大変嬉しい事である。
 さて、そうならばそれなりに書かねばならないという気にもなる。
 しかし考えをまとめる−−本業の補助として書いている文であるからには、やはりそのラインで構成するのがスジという物だ。……と言うわけで、引き続き自分のルーツについて考えてみる事にした。


 初日の日記で述べたように、ルーツとは別に血のそれを指すだけの言葉ではない。今の自分を形成するに至る重要な過程、要素。それら全てがルーツと言いうるだろう。
 その中で、初日も言及し、本日もまた言及したい重要なルーツが、山田ミネコ−−特にそのライフワークとも言える代表作「最終戦争伝説シリーズ」である。


 アフメット王国物語アフメット王国物語 (ノーラコミックス)や花咲く帝王の樹々シリーズによって花咲く帝王の樹々〈前編〉 (集英社スーパーファンタジー文庫)他の山田ミネコワールドともリンクしたこの巨大な世界観は、1975年から書き続けられた総数500(http://lala.zive.net/Comics_Room/yamada_mineko.html)を遙かに超える長編、短編によって構成される複合的物語だ。
 話の基軸となるのは、2296年に勃発する最終戦争である。
 最終戦争の原因は、遙かな宇宙から来襲し、今はアステロイドベルトと化した草星や火星、金星を同じく最終戦争へと導いて破滅させた侵略者デーヴァダッタ(妖魔)だった。女に取り憑き、寄生する事で不老不死と超能力をもたらし、男たちの生気を喰らう美しき吸血鬼。
 そのデーヴァダッタと戦うソマの戦士や、その侵略者から人々を守らんとするパトロールなどが各エピソードの主人公として描かれており、時には時間や場所のみならず、次元世界をも超えて話は膨らんで行く。


 面白いのは、この話が「デーヴァダッタと人の戦い」の一語でくくりきれない所にある。基軸としてあるストーリーはそうなのだが、シリーズの重要エピソードである「パトロールシリーズ」は最終戦争から500年後の世界を舞台に、タイムパトロールである西塔小角が時間犯罪者と戦う話であるし、一見して最終戦争と関わりないかに見える「ふふふの闇」

は、長命の命を持つ一族と妖怪たち、そしておそらくはデーヴァダッタの近縁と思われる「闇」との戦いを描いた物である。
 個々に魅力的な話が縦横無尽にクロスオーバーし、イレギュラーな要素とイレギュラーな要素が手を組んで、更なるイレギュラーと戦うと言うのが山田ミネコワールドの他にない魅力と言えるだろう。


 作中で最も古いエピソードは、同人小説で発表された何と紀元前1000万年前の火星と金星の最終戦争の話。これに1970年代から80年代を中心とする数多くの現代物のシリーズがあり、2760年代のパトロールシリーズ、物語の中核を為す3500年代のソマ王伊都原永都を中心としたシリーズなどがある訳だ。
 おまけに3500年代のシリーズの登場人物である、小鷹星夜は異世界を舞台にした小説「花咲く帝王の樹々シリーズ」に遙か未来の姿として登場している始末。
 タイムマシンにより時間という枠より解放され、さらに遙かな長寿を誇る人々や血液交換不老法、不死のデーヴァダッタの存在から宇宙規模で距離の問題すら度外視される上に、次元間の移動まであり得るこのコンプレックスの全貌を把握するのは、並や大抵ではない。
 だが、だからこそ私は蓬莱学園スタートレック、WoDのような巨大複合世界観を愛しているのだろうし、壮大なスケールの作品という奴の感覚が他人からかなりずれているのだろう。


 何しろ、山田ミネコワールドには全てがあると言っても過言ではないのだ。
 日常の些細なケンカや幼なじみの愛情、つまらないけれど当人にとっては重要な悩み、家庭の相克。
 世界を揺るがす大いなる危機に、文明の崩壊、星々の終焉、破滅した世界。
 絶望から人々を守ろうとする勇気、大切なものを失った物の慟哭、深く激しい愛。
 尋常ではない食欲と間抜けなリアクションを返してくる偉いのか偉くないの判然としない愉快なキャラクター、凛々しい女性とたおやかな少女。
 何処か一部を切り取るだけでも大変な作業である。


 いつか生活に余裕ができ、人脈なども出来上がって、好きな事を何か1つやってご覧と言われる日が来たら、やってみたいのは間違いなくこの山田ミネコワールドの集大成だと断言できる。
 商業出版のみならず、同人作品まで集めた上での山田ミネコ・コンプレックス。是非ともやってみたい仕事であり、同時にどうしても読みたい代物である事は、言うまでもない。
 何せ先も言ったように、私もこの作家の全貌は把握し切れていないのだ。