法事当日。

 法事(祭祀)当日。
 さすがに卵を初めとした傷みやすい食品の調理は当日に行われた。
 当日ともなると、親戚の女手も手伝いに来てくれたので、非常に助かった。何しろすでに連日の準備で結構バテてきている。助け手はいくらでも欲しい。
 
 
 で、まぁ、祭祀の本番である。
 とは言え、さすがに現代日本でそこまで派手な祭祀を個人の力で行うことは難しい。
 そこまで行かなくとも、現代社会に生きる以上、端折らねばならない事項はたくさんある。一番、悔いがあるというか、省かねばならないのが、元来の祭祀は「夜明けに行われる」と言う項目だ。本来は祭祀前日の夜からずっと宴会をやり、本番は夜明けの頃。そして朝ご飯と同時にまた宴会をやる訳だ。
 前日の夜のが言うなれば前夜祭で、祭祀の日は一日ずっと祭りをやるのである。*1
 より言うなら、祭祀の際には自宅の敷地内に宗廟があるのが前提であり、その近くの山に陰宅(墓地)があるのが当たり前という形式で作法が定められている。
 ……しかし、これらを全て達成するのが困難である事は、もはや言うまでも無いだろう。現代日本に住まう以上、何かは省かねばならないし、省くのが躊躇われる儀式の中核を為す事柄であっても、達成不可能に近いならそれを行うことはそもできない訳だ。
 なのでどうしても苦渋の選択として、略せる所は略して祭祀をやる。略せない所でも、どうしようもない所は略してでもやる。そうしなければ、そも祭祀を行うこと自体が不可能となり、本末が転倒してしまうからだ。
 
 
 そして夜も更け、親戚一同が会した所で祭祀その物の儀式へと入る。
 まず土地神を祭り、施餓鬼を行う。そして、その供物は一部を鬼たちへの振る舞いに、一部を竈神に、一部を地に返す。そうしてようやく、先祖の供養だ。
 まずは降神の儀を行う。先祖を祭祀の場へと呼び寄せるのだ。
 この際に、先祖ではなくその代理が来たり、先祖が他の鬼をつれてきたり、甚だしい場合だと全く赤の他人が来ることさえある。いずれにせよ、来た以上は祭るのが本分で、鬼の方も祭られた以上は守護を下すのが作法だ。*2
 ただし叶う限りはやっぱり先祖に来て欲しいため、祭文を読み、だめ押しでさらに呼び出しをかける。それらの過程が済んだなら、酒杯を捧げ、酒肴を供し、飯と汁を捧げて、最後にお茶を頂いてもらう。
 そうして人心地ついてもらってから、ようやくお客(この場合は祭祀を行う一家以外の血族)の訪問と挨拶を受けるのだ。もし人心地着く前に客の訪問を行うと、過剰に客からエネルギーを吸い取り、その身を損なってしまう可能性があるためである−−祭祀を行う一家の者は、事前準備の過程を守護と契約を施す。*3
 全ての挨拶が終わったなら、先祖には帰って頂き、残った者達は祭壇に上げた料理を下ろしてそれを頂く。祭壇に上げられた料理、すなわち先祖が食して料理には彼らの気が宿り、その料理を食することで生者らは彼らとの導管を獲得する。この導管を通じて、先祖はその子孫を守護するのだ。
 
 
 祭祀の儀式も終わり、そうしてようやく長かった一連の行事も終幕となる。
 祭祀のために片づけていた生活用品を元に戻し、さすがに食べきれなかった大量の料理をラップして冷蔵庫へ。*4
 さぁ、これで11月頭の行事は終了。
 次は遠方への出張である。法事で疲れ切った身体を、それまでに癒さねば……。
 
 

*1:そも神社でやってるお祭りと、私が行う祭祀にその意味で違いはない。

*2:そうしない場合は、縛したり散らすのが基本となる。

*3:最もそれでも身を損なうことはあるが……。

*4:物によっては冷凍庫へ。